趣旨
本研究プロジェクトは、近年よく叫ばれるようになった「子育ての危機」に挑むものです。現代社会の危機の多くは近代が内包していたもので、それらに直面したとき、私たちはしばしば狩猟採集民を振り返ります。そのルーツは、近代の夜明けにまで遡ります。18世紀後半、ルソーは「自然人」、すなわち自然状態の人間として、不平等がほとんど存在せず、小集団で自律的に暮らす人々を思い描きました。20世紀になると、初期の人類学者たちが、こうした自然人を彷彿させる狩猟採集民についての報告を行うようになりました。そうした研究は、現代社会の根幹をなす人間像にも反映されてきました。しかし、その後も研究は大きく進展しており、初期の報告には必ずしもあてはまらない狩猟採集社会の姿が明らかになっています。今や、ルソーの手のひらから抜け出し、生態環境、周囲の諸民族、国家などの社会制度と関連づけながら、狩猟採集社会の文化的多様性の形成過程を解明していくことが不可欠です。
こうした観点から本研究プロジェクトは、我が国が世界に誇る狩猟採集社会の研究実績があるボツワナ、ナミビア、カメルーンでアクション・リサーチを展開し、得られた動画資料の分析に基づいて、狩猟採集社会でのハビトゥス、すなわち文化的な行為や思考を生み出す身体的性向とそれをとりまくマイクロ・ハビタット、つまり身近な行動環境、言語環境、制度環境が相互構築される過程を明らかにします。これにより、理論的には社会変容と社会化を結びつけて理解すること、実践的には、いま社会化しつつある子どものよりよい未来の構築を目指します。これは、人文社会科学を基礎づけ直すとともに近年著しい成長を遂げているアフリカの社会や人々と共に学ぶことを可能にします。
研究代表:高田 明 (京都大学・アジア・アフリカ地域研究研究科・教授)
研究地域
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