田中文菜 大学院生 カメルーン派遣報告 (2023/02/11-2023/07/25)

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カメルーン派遣報告: フォーカルサンプリング法を用いた狩猟採集民バカの乳幼児の調査

京都大学大学院
アジア・アフリカ地域研究研究科
アフリカ地域研究専攻
田中文菜

派遣期間:2023年2月11日~2023年7月25日
派遣先:カメルーン東南部州の熱帯雨林地域
キーワード:子育て、愛着、文化化、社会化

1. 研究課題について

本研究は、基盤研究S(研究代表: 高田明)「アフリカ狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンにおける子育ての生態学的未来構築」の一環であり、中部アフリカ狩猟採集民バカの乳幼児が、複数の養育者による子育ての文化の中で、誰に愛着を形成して集団活動に参入し、バカの特徴ある行動様式を身につけていくのかを明らかにすることを目的とした。

2. 派遣の内容

今回の派遣は、中部アフリカ狩猟採集民バカの乳幼児の行動と養育者達のケアについて定量的なデータを取得することが目的であった。集落に住む0~4歳の乳幼児23人全員を、乳幼児1人につき20時間(1時間ごとに12分間の休憩を含む)観察した。フォーカルサンプリング法を用いて、30秒を観察単位として、行動の有無を記録した。行動の項目は、南部アフリカ狩猟採集民クンを調査したTakada(2010, 2014)の調査項目に基づいている。乳幼児の行動の項目は、集団遊び活動、運動、発声・表情、寝食、愛着行動などに関するものとし、養育者のケアの項目は、発声・表情、身体接触、愛情表現、授乳、身の回りの世話などに関するものとした。さらに、分析の際に必要となる他の調査も行った。それらは、1)集落の人全員の属性の調査、2)子育てに関する聞き取り調査、3)遊動生活に関する調査(集落の人全員が森のどの川に誰とキャンプに行ったかの記録)、4)頻繁に観察された子守唄の調査である。

3. フォーカルサンプリング法を用いた調査

写真1 夜の暗闇の中で目隠しをして歌いながら追いかけっこをする子ども

今回の調査の記録媒体には、スマートフォンを使用した。調査集落には電気がないため、ソーラーパネル(50Wを2つ)を日本から持参した。熱帯雨林の中は太陽光が届きにくいため、ソーラーパネルが使えるかどうか不安だった。しかし、伐採道路沿いの村では、毎日パソコンやスマートフォンを充電することができた。雨が降った日は、片手でスマートフォンを持ち、傘を差してデータを記録した。バカは森や畑をずんずん進んで行くので、スマートフォンは紙媒体よりもかさばらず記録しやすかった。しかし、スマートフォンを使い続けたせいで、熱帯雨林での滞在中、目が疲れ、肩が凝ってしまった。また、30秒のインターバルを示すタイマーは、バカの人達は音に敏感なので、彼らの負担にならないように、バイブレーションに設定し腰に装着した。それでも、一部のバカは、かすかな振動音に気づき、「ブーブー」と声に出して真似をし、「ココヨコ(バカ語でヒキガエル)だ」と笑っていた。

4. 派遣中の印象に残った体験

マラリアや腸チフスを発症することもなく、健康な状態で調査を行うことができた。しかし、滞在中に、片方の腕がチクチクとする痛みに襲われた。腕をバカの人に見せたところ、「腕の中に幼虫がいる」と言われた。そして、数人の男女が交代で私の腕をつねって幼虫を押し出そうとした。腕からは何も出てこなかったので、本当に腕に幼虫がいるのかと思いながら、しばらく抗生物質を塗っていた。1週間程して、かさぶたをはがすと、腕から白い幼虫がニョロッと出てきた。ピンセットで幼虫をつまんで取り出した。幼虫の写真を撮り、画像検索をしたところ、皮膚蝿蛆症が疑われた。ワセリンなどで呼吸孔を塞ぐと、幼虫は酸素が不足になり皮膚の表面に出てくるらしい。小さな呼吸孔がかさぶたに覆われていたため、かさぶたを外したとたんに幼虫が顔を出したと思われる。

5. 今後の派遣における課題

今回の調査では、村と、畑のキャンプでの定量的データを取得した。しかし、バカの人々は頻繁に森で生活するため、森のキャンプでのデータを取得することが今後の課題である。

写真2 村でおもちゃのバイクを作って遊ぶ子ども
写真3 畑のキャンプで遊戯的な歌と踊りをする子どもと大人

≪参考文献≫

Takada, A. 2010. Changes in Developmental Trends of Caregiver-Child Interactions among the San: Evidence from the !Xun of Northern Namibia. African Study Monographs 40: 155-177. Takada, A. 2014. Kinship and Caregiving Practices among the Ekoka !Xun. In A. Barnard, & G. Boden eds., Southern African Khoisan Kinship Systems. Research in Khoisan Studies Volume 30. Cologne, Germany: Ruediger Koeppe Verlag Koeln, pp. 99-120.