カメルーン派遣報告: 基盤研究Sの基礎固め
京都大学大学院
アジア・アフリカ地域研究研究科・教授
高田明
令和5年2月11日から23日にかけて,カメルーンの首都ヤウンデのヤウンデ第一大学,東部州の州都ベルトアの周辺の集落などを訪問し,本プロジェクトに関する研究打ち合わせ,情報収集などを行った.これまでは南部アフリカで調査を行うことが多かった報告者にとっては,二度目の中部アフリカでの調査活動であった.
ヤウンデでは,まず本研究のカウンターパートとなるヤウンデ第一大学人類学部を訪問してAntoine Socpa准教授らと本研究プロジェクトの構想について紹介し,その企画・運営について意見交換するとともに,カメルーンにおける狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンに関して,とくに幼児教育やその支援団体等の活動に関する情報収集を行った.Socpa准教授は京都大学に客員教員として赴任していたこともあり,報告者とは長年の研究上の交流がある.お互いに学術上の関心やこれまでの調査経験を把握しており,本プロジェクトをこれから推進していくためには,理想的なカウンターパートである.
ヤウンデでは,在カメルーン日本大使館にも赴いて,本プロジェクトの紹介をすると共に現在のカメルーンの医療事情,カメルーンと国境を接する赤道ギニア共和国で発生したマールブルグ病やカメルーン国内で多く見られる腸チフスやコレラなどについての医療事情に関する情報交換を行った.また髙岡特命全権大使と,これまでの京都大学を始めとする日本の研究機関のカメルーンにおける研究の歴史や報告者らが進めてきた人類学の研究関心について歓談を行った.
また,ヤウンデ市内の低開発地区に赴いて,同地域で活動を推進するNGOであるTamTam Mobileの担当者らの案内で同地域の視察を行った(写真1,2).とくに,地方から都市を訪れる人々が直面する不安定な就業や住居,排水設備が不十分で汚水やゴミの問題が深刻化しているコミュニティの現状が印象的だった.こうした地方-都市間の移動に関わる社会問題やサニテーションに関わる環境問題は,本プロジェクトでアクションリサーチを進めていく上でも重要な視点になることを確認した.
その後,TamTam Mobileのオフィスに赴いて,第1回の現地ワークショップを行った(国際共同研究強化(B)(代表:山内太郎)と共催).この現地ワークショップでは,同団体がこれまで推進してきた活動やこれから力を入れたい領域についての発表を拝聴すると共に本プロジェクトの関心や今後の活動に関する企画・運営について同団体とどういった協力関係を築くことができそうかについて意見交換を行った.
さらに,JICAカメルーン事務所を訪問して,JICAがカメルーンで活動を展開している事業について説明してもらうと共に,本プロジェクトの構想について意見交換を行った.JICAカメルーン事務所では,SATREPS「在来知と生態学的手法の統合による革新的な森林資源マネジメントの共創」や教育・福祉実践に関わる青年海外協力隊の活動など,子どもの生態学的知識の習得過程や近代化に伴うその変化に注目する本プロジェクトとも深く関わる事業が推進中であり,今後の研究協力についてきわめて有意義な情報が得られた.
また,ヤウンデから東部州の州都ベルトアに向かう道中にある集落を訪問し,同地で活動を進めているNGOであるMutcareの関係者の歓待を受けた.この集落では,本プロジェクトの関係者が地面に縦穴を掘ってトイレを設け,その養分・栄養分を活用するために付近に有用な果物や野菜の樹木を植えるというフルーツ・トイレ・プロジェクトが進行中であり(写真3),その進展についての視察も行った.
ベルトアでは,Mutcareおよびやはり東部州で活動を展開しているNGOのOkaniのオフィスを訪問して,担当者によるこれまでの活動の概要を報告してもらうと共に今後の活動計画について意見交換を行った(写真4).
東部州には,本プロジェクトのプロジェクト・サイトであるグリベなどバカ(いわゆる,ピグミー系狩猟採集民の一集団)の集落が多くあり,MutcareやOkaniはそれらの集落での生業や教育に関連する活動実績も豊富である.また,ベルトアにあるMutcareやOkaniのオフィスは設備が整っており.本プロジェクトで企画を進めている現地ワークショップの会場としても適している.
これらによって,短期間の訪問ではあったが,基盤研究S「アフリカ狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンにおける子育ての生態学的未来構築」の基礎固めを行うことができた.とくに,MutcareやOkaniなどのNGOと今後の東部州における研究協力に関する具体的なイメージを描くことができたことは大きな収穫である.