1. ホーム
  2. overseas-dispatch
  3. 林耕次 研究員 カメルーン派遣報告 (2022/08/25-2022/09/10)

カメルーン派遣報告: 基盤研究Sの可能性を探る

京都大学
アフリカ地域研究資料センター・特任研究員
林耕次

令和4年8月25日から9月10日にかけて、カメルーン共和国に渡航し、1)首都ヤウンデでヤウンデ第一大学、NGO Tam-Tam Mobileを訪れたほか、2)東部州・州都ベルトアでNGO mutcare, Association Okani を訪問した。また、3)東部州の都市ロミエでは、都市部近郊に暮らすバカ・ピグミー(*以下、バカと表記)の集落でフィールドワークを行うとともに、現地NGO ASTRADHEを訪問し、各地でプロジェクトの企画・運営に関連する情報の収集と共有、意見交換、研究発表をおこなった。

報告者にとってはパンデミック以降、約2年半ぶりのカメルーン渡航になったが、現地ではいずれの地域においてもコロナ禍の影響は落ち着いており、いずれのカウンターパート/ステークホルダーの方々には快く迎えられた。以下に詳細を記す。

1)首都ヤウンデ 

Prof. Antoine Socpa
ヤウンデ第一大学の人類学者Antoine Socpa教授は、プロジェクトでカメルーンサイドのカウンターパートである。報告者とは2018年以来の再会となった。カメルーンにおける狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンに関するフィールド調査の可能性について意見交換をおこなった。 

Tam-Tam Mobile(NGO) 
ヤウンデで主にスラム地区における衛生観念のプロモーション、および生活向上などのサポートをおこなっているNGOである。代表のSimon=Pierre Etoga氏は1990年代から日本人研究者と友好な関係を築いており、また、自身はジャーナリストとしての一面を持つことからカメルーンの各分野においても広い人脈を有する。報告者とは、地球研のサニテーション・プロジェクトを通じて、ヤウンデ市内のスラム地区におけるサニテーションや衛生問題、および市内のし尿汲み取り組合の状況などについて協働してきた。今回の滞在では、サニテーション・プロジェクト(*地球研、および科研費による)のカウンターパートであるヤウンデ第一大学のSerge H.T. Zebaze准教授(生態学)、同Ngnikam Emmanuel教授(環境工学; 兼E-R-A Cameroon コーディネーター)を交えてセミナーを実施し、とくにコロナ禍におけるカメルーンの状況について話を伺うと共に、来年(2023年)の8月~9月のいずれかの日程でヤウンデ市内においてサニテーションをテーマにした国際ワークショップを実施することで合意した。

写真1 ヤウンデにおいて2021年に「初めて」設置された下水処理場

また、Simon=Pierre氏の案内で、昨年9月にメリンダ=ビル・ゲイツ財団などの援助により建設されたし尿処理場を見学した。ヤウンデのスラム地区において共同で調査をおこなっている6区では、地区の首長であるMvilongo Tsala氏に面会し、コロナ禍における地域の状況や現状について話を伺った。

なお、Simon=Pierre氏の人脈より情報を得たヤウンデ第一大学の心理学者であるNdje Ndje Mireille教授は、子どもを対象とした研究実績も要しており、今回の渡航中はコンタクトをとることができなかったが、今後、バカの子どもを対象とした研究方法等について情報を得ることが期待される。 

2)東部州・州都ベルトア  

Mutcare(NGO) 
これまでベルトアを拠点に、東部州の農村地域においてサニテーションの普及を実践してきたmutcareとは、代表のCharles Zobome氏が村長を務めるNkoual(ンコアル)村にて、小学校に併設したトイレの建設を含む村内でトイレの普及と「Fruit-toilet」と呼ばれるトイレ跡地の有効利用を目指したパイロットサイトの現状について、現地の視察と合わせてこれまでの活動について報告を受けた。また、今後の協働継続について意見を交わすと共に、バカ・ピグミーと近隣農耕民のコンタクトゾーンに関するフィールド情報を伺った。なお、mutcareにも来年予定している国際ワークショップへの参加・発表を依頼している。

写真2 mutcareのオフィスにて研究活動の意見交換を行った

AssociationOkani(NGO)
ベルトアを拠点に東部州におけるバカ・ピグミーの先住民としての権利や文化をサポートしてきたAssociation Okani(以下、Okani)は、代表のBenant Messe氏、顧問Charles Jones Nsonkali氏が20年以上にわたり日本人研究者との友好な関係を築いてきた。いくつかの調査拠点におけるバカにとっての「理想的なトイレ」について報告を受けつつ、意見交換を行った。また、下記に記す調査地ロミエにおけるバカの集落で実践中のトイレ建設とその後の影響についてはCharles氏らのサポートを受けながら継続中である。Okaniとmutcareはそれぞれの本部が最寄りであり、これまでにも共同でプロジェクトを行ってきた実績がある。Okaniにはmutcareとは異なるアプローチから、コンタクトゾーン、および子どもを対象としたフィールドの情報を得ることができた。Okaniにも国際ワークショップへの参加・発表を依頼している。 

写真3 Okaniの代表Messe氏。過去のプロジェクトで作成した紙芝居式のブックレットを紹介してもらった

3)東部州・地方都市ロミエ

バカの集落(Adjela, Sissoh, Mokongo-wa-ya 
ロミエの近郊には3つのバカ集落がある。いずれの立地環境や人口規模、周辺農耕民との距離については差異がある。

写真4 バカの集落Mokongo-wa-yaにて。多くの子どもの姿が見られた

今回の調査で、サニテーション・プロジェクトにおけるコロナ禍以降、最初の調査として2020年2月以降の現状把握を主な目的とした。実際の状況としては、コロナ禍により報告者を含む外部研究者やサポートをしてくれていたOkaniメンバーの来訪が滞ったこともあり、バカ自身によるトイレを含むサニテーション状況の改善に対して積極的な進展はみられなかったというのが率直な感想である。ただし、一部では建設したトイレを利用している例もみられたが、衛生面、安全面、プライバシー観点の点では、多くの課題が浮き彫りとなった。

なお、今後のS科研の研究テーマに即して、各集落における生活環境と乳幼児のセンサスに応じて、集中的な参与観察を速やかにおこなえる下地を確認した。

ASTRADHE(NGO)
ASTRADHE (L’Association pour la Traduction, l’Alphabétisation, et le Développement Holistique de l’Etre Humain; The Association for Translation, Literacy, and Holistic Human Development) は、ロミエを拠点としたバカの統合的発展支援を目指した現地NGOである。具体的には、教育や将来の世代のための持続可能な開発を通じて、脆弱なコミュニティの生活環境を改善することを目指している(*パンフレットより)。報告者は代表のBrigitte Anziom氏と2017年以来の親交があり、ロミエを拠点としたバカ集落に関する情報も多く提供してもらっている。近年、カナダのNGOとの協働で就学前のバカの幼児を対象とした教育活動をおこなっていた(Anzion et al. 2021)。S科研のテーマとも近い活動であるため、今後の協力を仰いだ。

【参考】 Anziom, B., Strader, S., Sanou, A. S., Chew, P. (2021) “Without Assumptions: Development of a Socio-Emotional Learning Framework That Reflects Community Values in Cameroon” Frontiers in Public Health Vol.9, https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpubh.2021.602546/full