ナミビア派遣報告: 基盤研究Sの可能性を探る
京都大学
アフリカ地域研究資料センター・特任研究員
林耕次
令和4 年11 月4 日から11 月13 日にかけて、ナミビア共和国に渡航した。同年9 月のボツワナ渡航に続いて報告者にとっては初めての訪問地であり、プロジェクト代表である高田教授に同行しながら、首都ウィントフックのナミビア大学において関係者と打ち合わせを行ったほか、ナミビア国立図書館/資料館などを訪れた。
ナミビア大学では、本プロジェクトの共同研究者であるナミビア大学社会学部のRomie Nghitivelekwa 氏と本研究プロジェクトや今後の教育研究協力についての打合せを行った。また、ナミビア大学出版(UNAM PRESS)を訪れ、高田教授が出版した書籍“Hunters among farmers: The !Xun of Ekoka”の出版記念講演会についての打ち合わせに同席した。 後日開催された出版記念講演会では、多数の対面による参加者に加えてZoom を通じて海 外からの参加者もあり、高田教授の講演と合わせて後半は大変活発な議論がなされた。例 えば、講演の内容に関連して、「マイノリティの地域や民族、世代の声に耳を傾けるには どうすれば良いか?」「人びとのライフストーリー(ライフヒストリー)は国の歴史とど のように関連している?」「(元)狩猟採集民の土地利用の特徴は?」などのトピックは、 報告者が今後、本プロジェクトに携わりつつカメルーンなど他の地域での研究をすすめて いく上でも大きな刺激となるテーマであった。なお、報告者も終盤に会場に向けて簡単な 挨拶をしたが、公式な講演会のあとにUNESCO の関係者らと本プロジェクトやサニテー ションの問題に関して意見交換をする機会を持つことができたのは幸いであった。
ナミビア国立図書館/資料館では、一般蔵書のほかにアーカイブ資料としてのナミビア独立前後の新聞各紙や出版物を収めた地下の書蔵庫にも担当者から案内をしてもらった。他方で、サンをはじめ人類学をはじめとした学術系の文献を揃えたナミビア科学協会の蔵書では、気になる蔵書が多数見られ、時間が許せばじっくり訪問したいと思うものであった。
報告者のウィントフック滞在の終盤には、在留邦人であるエイブラハムス島袋律子氏の夫であるKenny Abrahamさんが経営する私立Jakob Marengo 中等学校を訪れた。授業の取り組みの一環として、性教育における月経理解の実践で、男女を問わず全校生徒が「手作りの再利用可能な生理用ナプキン」をみずから制作するという試みがあり、その詳細について担当教員や生徒を交えて紹介してもらった。月経はサニテーションや衛生、人権に関わる問題として国際的に取り扱われるテーマであるが、このような先導的とも思える教育方針と、それらを受け入れている生徒の皆さんの姿勢に強い感銘を受けた。
以上のようにナミビア滞在中は、ボツワナ渡航時同様、各所において高田教授と同行したこともあり、高田教授の人脈や経験を共有させて頂いたことは幸運であった。ただし今回も報告者のナミビア滞在期間が短かったことで、狩猟採集民や農牧民といった本プロジェクトの対象者が暮らす地域に足を伸ばすことができなかったのは残念である。それでも、報告者が長年関わってきたカメルーンとの風土的・文化的・歴史的な違いを一端とはいえ触れることができ、その上でプロジェクトの軸となる教育や制度といった面から国ごとの特徴を垣間見ることができたのは大きな収穫であった。