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  3. 林耕次 京都大学 研究員 カメルーン派遣報告 (2023/02/04-2023/03/14)

カメルーン派遣報告: 養育研究を含む調査の地固め

京都大学
アフリカ地域研究資料センター・特任研究員
林耕次

令和5年2月4日から3月14日にかけて、カメルーン共和国に渡航し、1)首都ヤウンデでヤウンデ第一大学人類学部を訪問して、カウンターパートのAntoine Socpa准教授 、高田教授ほか日本人研究者らと本プロジェクトの構想や今後の研究の可能性などについて意見交換を行った。また、NGO Ta m-Tam Mobileを訪れ、スラム地区の視察を行うとともにワークショップを開催した。2)東部州の都市ロミエでは、都市部近郊に暮らすバカ・ピグミー(*以下、バカと表記)の集落とその周辺において生業活動や育児の観察を伴うフィールドワークを実施した。さらに、3)東部州・州都ベルトアでNGO mutcare, Association Okani を訪問して研究打ち合わせを行った。以下ではおもなトピックについて記す。

1) 首都ヤウンデ

写真1 ヤウンデ大学の研究室にて。左端がAntoine Socpa准教授

本プロジェクトの代表・高田教授らとともにヤウンデ第一大学人類学部を訪問して、カウンターパートのAntoine Socpa准教授とその同僚、大学院生を交えてカメルーンにおける本プロジェクトの構想や今後の研究の可能性などについて意見交換を行った(写真1)。 また、現地NGOのTam Tam Mobileメンバーの案内でスラム地区を訪問し、ごみ・トイレ・水場を含むサニテーションの状況を踏まえた生活環境の概観を眺めつつ、対象区域内の小学校の視察を行った。その後、Tam Tam Mobileのオフィスにおいて、第1回の現地ワークショップを開催した (※報告者も研究分担者として加わっている科研費・国際共同研究強化(B) との共催)。この中で報告者は、東部州における現地調査の進捗を踏まえた今後の研究の方向性についての発表を行い、S科研の詳細については高田教授主導で、カメルーンにおけるTa m Ta m Mobileとの協力関係の可能性について意見交換を行った(写真2)。今後、ヤウンデにおける子どもや障害者を対象とした教育・サポート施設や、関連する団体・研究者らを紹介して頂くことが期待できる。

写真2 NGO Tam Tam Mobileのオフィスにて。右端は代表のSimon=Pierre Etoga氏

2) 東部州・地方都市ロミエ

ロミエの近郊のバカ集落については、前回のカメルーン派遣報告(2022/8/25-9/10)で概要を記したが、今回の滞在中では、3つの集落における乳幼児を中心とした子どもがいる世帯に注目しながら、養育行動を含む子どもへの関わり方に注目をした。

3集落において、過去に実施してきた世帯調査を更新するとともに、特に乳幼児を含む年少の子どもに着目して、親や兄弟、親族などとの関わり方を踏まえた日々の生活スタイルについて把握することを努めた。観察を通じて、授乳を伴う乳児(0歳~1歳)では母親と行動を共にすることが必然的に多かったものの、定住集落での滞在時には、夫や同集落の近親者らが積極的に抱きかかえるなど身体的な接触を通じて世話をする様子が観察された。なお、今回の調査期間中は大乾期にあたる季節で、集落周辺の焼畑を伐開する作業と近郊の川で女性が集団で行う掻い出し漁(guma)が生業活動のなかでは特徴的であった。調査期間中、一回あたり数時間程度であるものの、乳幼児を対象とした個体追跡調査を実施したが、畑や森での移動中を除いた活動時に乳幼児を手放し、同行した別の人(夫、母、別の子ども、その他親族)に世話を任せることがごく自然に行われていることが印象的であった。掻い出し漁の際には、まだ一人歩きができない乳児(生後6ヶ月ほどの男児)が、作業に勤しむ母親の傍らの水辺で、泥だらけになりながら落ちている枝木や石や泥などで独り遊びをしていた。報告者は観察をしつつも、時々危なっかしさを感じていたが、周りでは年少の子どもを含む母親の親族らが時々構うことで、怪我などの危険からは回避させていた様子が窺えた(写真3)。

また、一人歩きを始めた1歳半ほどの男児を集落で観察した際は、両親ともに積極的に構うことなく自由に家の中や集落を歩き回り独り遊びをする傍ら、両親や集落にいる親族と初歩的な言葉を交わすなど、モノや行動における言語との一致を図る様子が観察された(写真4)。

写真3 掻い出し漁の最中に、観察対象の乳児を抱く少女
写真4 近親の叔父と簡単な言葉を交わす男児

報告者は過去にバカの大人を対象とした個体追跡を多数行ってきた実績があるが、今回のように乳幼児を含む子どもの行動観察を集中して行ったことはほぼ初めてであった。本プロジェクトでは、生活環境や慣習を背景とした養育行動、子どもの言葉の習得などがテーマとしても想定されているが、その一端を観察することができ、今後の研究としての可能性を見出すことができたのは有意義であった。

今後は、季節ごとの生業活動や集落・集団による社会的な特徴を把握しながら、周辺環境や近隣農耕民の関係などを含む体系的な視点を取り入れつつ、個々の調査対象に絞り込む必要があるだろう。

3) 東部州・州都ベルトア

写真5 バカの 生活文化が描かれた書物の説明をするOkani代表のBenant Messe氏

カメルーン滞在の終盤、ベルトアを訪れた際にNGOのmutcare代表Charles Zobome氏に再会し、2023年9月にベルトアでの国際ワークショップの開催について意見交換を行うとともに、それらを踏まえた研究成果として学術的な論文と、地域住民らを対象とした成果の紹介方法について意見交換を行った。また、同じくNGOのAssociation Okani(以下、Okani)代表のBenant Messe氏とも面談し、上記同様mutcareとの合同国際ワークショップの開催、学術論文の共同執筆やピクチャーブックの刊行例などについて意見交換を行った。この中で、Messe氏からは、Okaniがかつて他の機関と協働して行った活動の成果として作られたバカ語のみによる語彙集の小冊子や、バカの生活文化を伝えるためのデザインブックや紙芝居式の刊行物をみせてもらった(写真5)。Messe氏は、プロジェクトを通じて、内容についてより完成度が高く、素材としての用紙や印刷・製本の質が高い日本製(産)の刊行を熱望しており、それについても前向きに検討したい旨を伝えた。