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  3. 野口朋恵 大学院生 ノルウェー派遣報告(2023/03/26-2023/04/02)

ノルウェー派遣報告: Contemporary hunter-gatherers and education in a changing world: Towards sustainable futuresに参加して

京都大学大学院
アジア・アフリカ地域研究研究科
アフリカ地域研究専攻2回生
野口朋恵

派遣期間:2023年3月26日~2023年4月2日
派遣先:ノルウェー王国トロムソ
キーワード:子ども,学校教育,狩猟採集民

1. はじめに

本派遣の目的は,基盤研究S「アフリカ狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンにおける子育ての生態学的未来構築」の一環で,狩猟採集民の子どもの学校教育にかんする国際ワークショップContemporary hunter-gatherers and education in a changing world: Towards sustainable futuresに参加することであった.計3日間のワークショップは,各国からの狩猟採集民研究者および当事者らによる報告,これに関連した映像資料の鑑賞,グループワークにより行われた.

2. ワークショップの内容

写真1 Kakkoth氏(中央)と Cochin氏(右)による報告 左は本会の主催者である Hays氏.

2.1 狩猟採集民の子ども社会における学校教育に関連した報告(表1)
報告では,狩猟採集社会における子どもの社会化の特徴と学校で提供される教育の間で生じているコンフリクトの実態に基づき,コミュニティを中心とした質の高い教育提供のあり方について問題提起がなされた(写真1).また,こうした狩猟採集社会の子どもの発達や環境に対する知識を行政や国際機関にどのように提示し,対話していくのかにかんして意見交換がなされた.また,狩猟採集社会における実践と科学知の融合の可能性や高等教育機関の役割に関しても議論が行われた.

表1 報告の概要

写真2 Policy Brief Templatesの参加者

2.2 グループワーク
報告者はPolicy Brief Templatesのグループに参加した(写真2).本グループの目的は,狩猟採集社会の子どもの学校教育をめぐる現代的課題に対する有効な教育の代替案を,政府や国連等の意思決定機関に伝達するための方法を検討することであった.参加者は,インドネシア,フィリピン,カメルーン,タンザニア,ボツワナで活動している研究者や教育活動家によって構成されていた.

一日目は,参加者それぞれのフィールドにおける学校教育にかんする課題の共有とディスカッションが行われた.各国が抱える共通の課題としては,学校で使用される教授言語,教員と子どもの文化的背景の違い,学校への物理的なアクセスの3点が明らかとなったが,地域ごとの具体的な状況は多様であった.そのため,このグループがどのように活動を進めていくかについてのコンセンサスは得られなかった.

二日目は,UNESCOのCrawhall氏同席のもと議論が続けられた.Crawhall氏はコミュニティと行政・国際機関との連携が阻まれる要因として,1) 行政による地域住民のニーズ吸い上げ,2) 国際機関が打ち出した教育関連指針のコミュニティにおける実装,といういずれかのプロセスにおける不十分なコミュニケーションを指摘した.その上で,これら機関との有機的な連携に際しては,明確なプロポーザルおよびパフォーマンス評価に基づく実行可能性を明示することの重要性を強調し,その際に有効な評価スケール等にかんしても情報提供がなされた.

最終日は,前日のCrawhall氏からの助言に基づき,今後の具体的な展開に向けた議論が行われた.本グループでは,狩猟採集社会の子どもの学校教育をめぐってコミュニティが抱えている課題の明確なデータに基づく,意思決定機関への提言に向けて,取り組みの概要を示したポスターと白書を作成することで合意した.具体的にアプローチする機関として,国連,NGO,UNESCO,地方自治体を想定することで意見が一致した.また,成果の具体的な実装に向けて,引き続きオンライン等を用いて定期的に議論を行うこととなった.

3. 今後の展望

写真3 トロムソの港.澄んだ空気が心地よく感じられた.

本ワークショップでは,アフリカ地域を含む世界各地の狩猟採集社会の子どもの学校教育をめぐる課題を把握することができた.また,休憩時間の中では,報告者の研究テーマであるノンフォーマル教育にかんしても他の参加者と情報交換を行うことができ,今後の研究に向けた関係構築を進めることができた.報告者の調査地であるボツワナ共和国ニューカデ地域においても,これまで学校教育をめぐる様々な課題が報告されてきた.しかし,依然として状況は改善されないまま現在に至っている.地域研究においては,当該地域の実情を記述することはもとより,その地域とともによりよい未来を展望することも重要な課題である.今後も,狩猟採集社会の子どもの教育をめぐるコミュニティ中心の意思決定のあり方について検討を重ねていきたい.