ボツワナ・ナミビア・南アフリカ派遣報告: 基盤研究Sの基礎固め
京都大学大学院
アジア・アフリカ地域研究研究科・教授
高田明
令和4年9月24日から12月15日にかけて,おもにボツワナのボツワナ大学,ニューカデ村,ナミビアのナミビア大学,エコカ村,UNESCOナミビア・オフィスなどを訪問し,本プロジェクトに関する研究打ち合わせ,データ収集などを行った.報告者にとっては,Covid-19で海外渡航が2年半以上の間ほぼストップしてからは初めての長期海外調査となった.
ボツワナ大学では,まず本研究のカウンターパートとなる人文学部のアフリカ言語・文学学科,サン研究センター,環境健康学科などを訪問してBudzani Gabanamotse-Mogara教授,Andy Chebanne教授,Maitseo Bolaane准教授,Roy Tapera上級講師らと研究打ち合わせを行うとともに,ボツワナの狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンに関する資料収集を行った.今回の研究打ち合わせでは,本プロジェクトの構想について紹介し,その企画・運営について意見交換するとともに,調査許可の更新,今後のボツワナ-日本間での教員・院生の派遣・招へい,これまでにボツワナで調査を行ってきた研究者等の近況について情報を交換し,さらに本プロジェクトをさらに発展させて,ボツワナ大学と京都大学の学問的交流を一層盛んにしていくための具体的な提案や調整を行った.
続いて訪問したハンツィ地区のニューカデ村は,報告者が大学院生の頃から四半世紀にわたって通い続けている調査地である.ニューカデ村はボツワナ政府による遠隔地居住者の再定住化政策により設立された村で,この地域一帯の先住民・狩猟採集民として知られるグイやガナを中心とする1500人以上の人々が暮らしている.今回の調査では,本プロジェクトと関係の深いニューカデ村の小学校,およびOSET(Out of School Education and Training)などを訪問した(写真1, 2).
このうちOSETは,小学校の退学者らを対象とするノンフォーマル教育を推進する組織である.ボツワナでは,国内では圧倒的多数派をしめるツワナの人々の文化や言語についての理解を前提とした教育が推進されてきたが,近年ではグイやガナを含む少数派の文化や言語を尊重する動きも大きくなってきている.OSETはこうした政策の今後を占うとともに,本プロジェクトの主題となる狩猟採集民と農牧民のコンタクトゾーンにおける社会化や文化の再生産について考えるうえで重要な組織である.今後もその活動に注目していきたい.
また,本プロジェクトにおいてボツワナでは再定住地における健康問題にとくに注目している.その一環で,ニューカデ村に設けられているトイレについても予備的な観察を行った(写真3,4).こうしたトイレは,ニューカデ村の設立以降に政府の支援によって居住者の住居のプロット内に設けられたコンクリート製のものである.地面に数メートルの穴を掘ったシンプルな仕組みで,下水の設備はなく,くみとりも行われていなかった.調査時には村内の上水道の水の供給が滞っていたこともあってトイレは十分機能していなかった.今後の調査によって,こうしたトイレや水の供給を始めとしたサニテーション状況の分析を進めていく予定である.
続いてナミビアに移動し,首都のウインドフックにあるナミビア大学を訪問した.カウンターパートとなる社会学部では,共同研究者であるRomie Nghitevelekwa講師らとナミビアの狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンに関する打ち合わせを行うとともにこれに関する資料収集を行った.Nghitevelekwa講師はナミビアの狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンにおける土地問題を専門とする優れた研究者であり,これから本プロジェクトの一環で京都大学を訪問したり,現地での共同研究を行ったりすることも検討している.
ウインドフックでは,ナミビア大学のナミビア大学出版(UNAM Press)の主催で報告者が同出版社から2022年に出版した書籍“Hunters among farmers: The !Xun of Ekoka”の出版記念講演会(Book Launch)も行った<https://www.facebook.com/photo?fbid=560738866052980&set=a.461081219352079>.報告者は同出版社の2022年11月のAuthor of the Monthにも選ばれており,Book Launchの会場では現地の国際機関や研究機関の研究者や一般の読者らと報告者との間で熱気のある議論が行われた.
その後,上記の書籍の主たるフィールドであり,報告者がやはり大学院生の頃からサンの一集団であるクンの調査を行ってきたナミビア北中部オコンゴ地区のエコカ村を訪問した.エコカ村では,上記の書籍を現地の住人や組織に寄贈するとともに,クンにおける子育ての生態学的未来構築に関する現地調査を行った<Äul https://www.facebook.com/photo?fbid=594997532627113&set=pcb.595009525959247ÄulnoneÄstrike0>.短い滞在ではあったが,旧知の友人・知人たちに加えてそれに続く世代の青年や子どもたちと心の温まる交流を行うことができた.
その後も,紙幅の制限のため十分に述べることはできないが,ナミビア北西部のオゾンドゥンドゥ保全地区でヒンバにおける子育ての生態学的未来構築に関する予備的な現地調査を行ったり,ウインドフックのUNESCOナミビア・オフィスでHelvi Elago国家プログラムオフィサーとナミビアの狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンに関する打ち合わせと資料収集を行ったりして,基盤研究S「アフリカ狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンにおける子育ての生態学的未来構築」の基礎固めを行った.約3ヶ月間という,教員としては比較的長い海外渡航であったが,あっという間に過ぎた印象があるのは充実した時間を送ることができたからであろう.これを可能にしてくれた関係諸機関や人々に感謝したい.