杉山由里子 研究員 ドイツ派遣報告(2023/5/29~2023/6/10)

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ドイツ派遣報告: African Futures2023への参加・発表

京都大学
アジア・アフリカ地域研究研究科・研究員
杉山由里子

 2023年5月29日~6月10日の日程で渡航し、ドイツ・ケルン大学グローバル・サウス研究センター (GSSC)にて開催される「アフリカの未来2023(African Futures 2023)」での研究発表を行った(写真1)。この国際研究大会は、第 9 回欧州アフリカ研究会議 (ECAS) の一環として開催された。本来2021年6月に開催される予定だったが、パンデミックの影響により2023年に延期された。本大会を待ちわびてか非常に参加者が多く、80カ国から約1900人がケルンに集い、 245のパネルと1400件の研究が発表され非常に熱気に溢れる大会であった。

写真1-1:「アフリカの未来2023」の会場ケルン大学 
写真1-2:「アフリカの未来2023」の会場ケルン大学 

「アフリカの未来2023(African Futures 2023)」は、アフリカの過去、現在、そして未来の世界との関わりについて、アフリカ大陸の重要な役割を探ることがテーマとされた。アクションリサーチを通じてフィールドやその関連組織・人間関係の再編を促し、よりよい未来を構築しようという本プロジェクトとの主旨からも非常に興味深い会議であった。報告者が参加したのは、『家族の記憶とアフリカの未来』と題されたパネルで、ここでは以下の8人が発表をおこなった。

・アフリカの家族史、記憶の実践、未来のビジョン

・ガーナ南部の家族の歴史の記憶

・ダカラファミリーの結婚と性:植民地時代におけるキリスト教の道徳観について

・アメリカ出身でも私はガーナ人:ジャックポットベイビーの両義的な帰属

・喚起的な繋がり:ボツワナにおける移住政策とサン (報告者:杉山)

・夫の帰還:ボツワナの男性労働帰還者と女性、1970年代から現在まで

・戦争と平和の子供たち:紛争後のアフリカの未来における家族の記憶と遺産

・過去を手に持つこと:個人のアーカイブ、家族の記憶、アフリカの歴史の未来

 このパネルでは、近年アフリカの多くの人々が移住し離れて暮らすようになったり、宗教的な聖職者や公務員から農業まで多様な職業に就いていたりと、そうした家族の離散や職業の多様化のなかで、彼らの記憶こそが家族を繋ぎ合いまた帰属意識を与えているのではないか、という視点に基づき、アフリカにおける家族の記憶とその実践のあり方をテーマとしたものであった。発表者が多かったために午前と午後の部に分けてパネル発表が行われたが、1日を通して会場は満員となり、現在のアフリカにおいて“記憶”や“家族のあり方”が、多くの参加者の興味を引くテーマであることを実感した。

 報告者は「喚起的な繋がり:ボツワナにおける移住政策とサン」という題名で発表した。発表の内容は、近代化政策や他民族との接触の過程の中で、狩猟採集社会自身が弱者としての記憶を再構築し、またアイデンティティを反映させた「私たち」としての繋がりを見せているようすを明らかにしたものである。近年国際的にも注目されている、ボツワナにおける埋葬に関する裁判を扱ったため、沢山の質問やコメントをもらい、多くの参加者から興味を持ってもらえた。パネルを通して、今のアフリカにおいて「家族」とは何かや記憶の実践のあり方など、報告者自身も問いとしてきたことを議論することができ、とても充実したパネル発表となった。

 また、「アフリカの未来2023」では期間中に様々な講演会が開かれた。その中でも、「ヨーロッパにおけるアフリカ研究の未来はあるのか?」と題したラウンドテーブルでは、報告者と同世代の研究者たちが、1000人を超えるオーディエンスを前に堂々と議論し合う姿に刺激を受けた(写真2)。彼らはヨーロッパでアフリカ研究をしているアフリカ出身の研究者たちで、ビザの問題や金銭的問題を抱えながら異国で自分の国について研究する意味を悩みながらも見出している姿は、報告者が所属する京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科に所属するアフリカ学生にも重なるものがあり聞き入ってしまった。

写真2:「アフリカの未来2023」中に開催されたラウンドテーブル

そして、「アフリカの未来2023」では、報告者以外にもボツワナに関する発表があった。オカバンゴデルタの環境保全や国境を超えた野生動物の保護に関して、ボツワナ大学オカバンゴリサーチセンター所属の教員が発表した。報告者が面白いと感じたのは、次の2つの発表である。1つはボツワナ農業大学に所属を持つ学生(ディアーナさん)による、南部アフリカにおけるガーデニングから人々の歴史観を分析し、ガーデニングの社会文化的意義について議論したものだ。2つ目は、ボツワナ大学出身で現在フリーステート大学に所属する研究員(セツェレさん)による発表で、ボツワナにおいて、夫が出稼ぎを終えて帰国した場合に生じる社会的変化を調査し、家父長制社会であるボツワナで夫の不在と帰還が、ボツワナのコミュニティと女性たちにとってどのような影響を与えてきたのかを分析したものだ。2人とも報告者と同年代の女性研究者であり、今回の派遣を通してボツワナで研究する同士に出会うことができ、非常に有意義な時間を過ごすことが出来た。

写真3:街中のどこからでも見ることのできるケルン大聖堂とライン川