ナミビア派遣報告: 基盤研究Sの展開
京都大学大学院
アジア・アフリカ地域研究研究科・教授
高田 明
令和5年8月5日から23日にかけて,おもにナミビアのナミビア国立資料館・図書館,ナミビア大学,ナミビア・福音ルーテル教会オニパ,オシカンゴ高校,エンハナなどを訪問し,本プロジェクトに関する文献収集,研究打ち合わせ,データ収集などを行った.報告者にとっては,Covid-19が収束を迎えつつあった2022年11月に久しぶりにナミビアを訪問してから,約8ヶ月を経ての短期のナミビア訪問となった.
ナミビアでは,まず首都のウインドフックにある国立資料館・図書館を訪問した.国立資料館・図書館は,ナミビアでは最大規模の文献・写真資料を保持しており,歴史学,地域研究,人類学を始めとする幅広い分野のナミビア研究者にとってきわめて重要な機関である.資料の整理がよく,司書の方々も研究活動に対する深い共感と理解を持っている.今回の訪問では,地下に設けられたナミビアに関する大部の書籍や新聞,雑誌からなるスペシャル・コレクション,及び植民地期に撮りためられた写真のコレクションを拝観し,本プロジェクトで焦点をあてているナミビアにおけるアフリカ狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンについても貴重な知見を得ることができた.重要な写真に関しては,本研究等に活用するために電子版のファイルを購入することもできた.
続いて,ナミビア大学を訪問した.カウンターパートとなる社会学部では,昨年度に続けて,ナミビアの土地問題を専門としており,本研究プロジェクトでの共同研究者でもあるRomie Nghitevelekwa講師らとナミビアの狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンに関する打ち合わせを行うとともにこれに関する資料収集を行った.Nghitevelekwa講師は,これから本プロジェクトの一環で京都大学を訪問したり,現地での共同研究を行ったりすることも検討している.
その後,報告者が大学院生の頃から調査を行ってきたナミビア北中部に移動し,オニパにあるナミビア・福音ルーテル教会 (Oniipa ELCIN)を訪問した.ELCINは19世紀後半からのFinnish Missionary Society (FMS)の多大な尽力により1950年代に設立された現地協会であり,Oniipaには長年そのヘッドクォーターが置かれてきた.教会はもちろんだが,図書館,出版局 (ELCIN Printing Press & Book Depot; 写真1),教会と密接な関係を持って設立・運営されてきたオナンジョコエ病院 (写真2),ゲストハウスなどが敷設されており,教会を中心として確立した街となっている.ナミビア北中部から拡がり,ナミビアの建国にも大きな影響を与えたELCINの動向やそれに関わった人々については今後も調査を進める予定である.
さらに,Oniipaから車で30分ほどの距離に位置し,19世紀後半に最初にFMSのステーションが設けられたOlukondaも訪問した.FMSのステーションは現在も保存されており (写真3),さらに,FMSの布教やELCINの設立に大きく貢献したフィンランド人の宣教師Martti Rautanen (通称Nakambale)のゆかりの品,地域の伝統文化についての資料などを展示するNakambale Museumも設けられている.これらの資料からは,1.5世紀あまりで急激な変化を続けつつあるナミビア北中部の歴史と文化,それに関わってきた人々に思いを馳せることができた.
さらに,地域の名門高校であるOshigambo High School (写真4)やサン(クンやアコエ)のコミュニティがあるEenhanaにも足を伸ばした.Oshigambo High SchoolはELCINとも密接な関わりを持ち,植民地期においてもナミビア北中部の住人の高等教育を担った重要な教育機関である.ナミビアの独立や国家建設に大きな貢献をした卒業生も多い.今回の訪問では,校長先生自ら校内を案内してくれた.今後の調査でも,その過去,現在,未来に渡る地域への貢献について考察を巡らせていきたい.Eenhanaのサンのコミュニティでは,クンにおける子育ての生態学的未来構築に関する現地調査を行った.短い滞在ではあったが,旧知の友人・知人たちに加えてそれに続く世代の青年や子どもたちとの再会を果たし,貴重かつ心の温まる交流を行うことができた.これらには大学院生の渡邉麻友さんや河尻みつきさんも参加した.
その後も,紙幅の制限のため十分に述べることはできないが,ナミビア北中部ではEenhanaに設けられた赤十字社やMinistry of Information and Communication Technologyのオフィスや,OniipaにあるTown councilなどを訪問し,それらの関係者とナミビアの狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンに関する打ち合わせと資料収集を行ったりして,基盤研究S「アフリカ狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンにおける子育ての生態学的未来構築」の展開を図った.2週間強という,短い渡航ではあったが,充実した時間を送ることができた.これを可能にしてくれた関係諸機関や人々に感謝したい.