オーストラリア派遣報告: ICCA2023への参加・発表
京都大学大学院
アジア・アフリカ地域研究研究科・教授
高田明
令和5年6月27日から7月2日にかけて,オーストラリアのブリスベンにあるクイーンズランド大学(写真1)を訪問し,同大学で開催されたThe International Conference on Conversation Analysis(ICCA2023)に参加,研究発表を行うと共に,ICCA2023の出席者とアフリカ狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンにおける子育ての生態学的未来構築について意見交換を行った.
ICCAは,世界中の会話分析の研究者が一堂に会する国際会議である.会話分析のメッカであるUCLAでこれを学んだ報告者やその共同研究者にとっては,前提となる専門的な知識を逐一説明せずに,いま最も関心を持っている事柄について深い対話を行うことができる貴重な場であるとともに,旧知の友人・知人との交流を暖める機会でもある.またICCAとしては,南半球とアジア太平洋地域では初の開催となった.
報告者は,ICCAの母体であるThe International Society for Conversation Analysis の現会長であるTanya Stivers博士(UCLA)とその同僚であるGiovanni Rossi博士(UCLA)がオーガナイズしたExploring Social Norms across Languagesというパネルに参加・発表した.このパネルの目的は,参加者が,会話の開始部分や会話への参与者のリクルートに関する,言語を超えた社会的規範およびその文化に特有の規範について,最新の発見を報告・共有することであった.パネルは,イントロダクションと以下の4つの発表から構成されていた(括弧内は発表者).
1. Introduction to Exploring Social Norms across Languages (Tanya Stivers)
2. Recruitment systems around the world: A quantitative analysis (Giovanni Rossi, Jörg Zinken, Julija Baranova, Joe Blythe, Mark Dingemanse, Simeon Floyd, Kobin Kendrick, and N. J. Enfield)
3. Norms and practices that enrich storytelling among the G|ui/Gǁana of the Central Kalahari (Akira Takada)
4. Departures: the relationship between norms and preferences (Tanya Stivers, Andrew Chalfoun, and Giovanni Rossi)
5. Shifting Responsibility onto Coparticipants: Disaffiliative Accounts as an Interactional Practice (Andrew Chalfoun)
発表者(共同研究者)は米国,日本,ドイツ,オーストラリアなど世界各地の研究機関に所属する研究者から構成され,対象とするフィールドも米国,イタリア,南部アフリカのG|ui/G||ana,北部オーストラリアのMurrinhpstha,ガーナのSiwu,エクアドルのCha’palaa,ラオスのLaoなどと様々な大陸・民族に渡っており,パネルの主旨に沿った活発な議論が行われた.このパネルの発表と関連したさらなる共同研究も進行中である.
また,ICCA2023ではさまざまなワークショップの機会が設けられ,会話分析の入門者向けのチュートリアルや新たな分析手法などについて活気のある議論が交わされていた.
さらにブリスベンには,世界各地の食文化を融合するような素晴らしいレストラン,多様なナイトライフや音楽シーン,都会的なアートスペースなどが盛りだくさんにあった(写真2,3).水上交通も発達しており,滞在したホテルからは水上バスに乗ってクイーンズランド大学のキャンパスにそのまま乗り付けられるようになっていて驚いた(写真4).人類学者としても大いに興味を惹かれる街であり,世界の様々な地域から訪れた参加者たちの評判も上々であった.
また,依然としてマスクを着用している人が多かった日本とは異なり,オーストラリアでは学会会場でも市中でもマスク着用者が数えるほどしかいなかった.ただし,コロナウイルス自体は存在していたようであり,感染症対策についても考えさせられる催しであった.
次回のICCAは,3年後に開催されるそうである.パネルの参加者や同行した研究者仲間らと,これからも一層研究活動に励んで再びこの祝祭的なイベントに参加し,研究発表を行うことを誓った.