高田明 教授 ボツワナ・ナミビア・南アフリカ派遣報告(2024/08/01-09/06) 

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ボツワナ・ナミビア・南アフリカ派遣報告 ―基盤研究Sの進展―

京都大学大学院
アジア・アフリカ地域研究研究科・教授
高田 明

令和6年8月1日から9月6日にかけて,おもにボツワナのボツワナ大学,ニューカデ村,ナミビアのナミビア大学,ナミビアルター派福音教会,エコカ村,オナンジョコエ病院博物館などを訪問し,本プロジェクトに関する研究打ち合わせ,資料収集,現地調査などを行った.期間のわりに移動距離が大きく,ハードな日程であったが,以下に見るように今後のプロジェクトの展開につながる充実した渡航となった.

ボツワナの首都ハボローネでは,まず本研究のカウンターパートとなるボツワナ大学人文学部のアフリカ言語・文学学科,サン研究センター,環境健康学科などを訪問してMaitseo Bolaane准教授,Budzani Gabanamotse-Mogara教授,Andy Chebanne教授,Roy Tapera上級講師,Boga Manatsha上級講師,Dimpho Ralefala博士らと研究打ち合わせを行うとともに,ボツワナの狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンに関する資料収集を行った.今回の研究打ち合わせでは,本プロジェクトの進展について情報を共有し,今後の企画・運営について意見交換を行った.また調査許可の更新,今後のボツワナ-日本間での教員・院生の派遣・招へい,これまでにボツワナで調査を行ってきた研究者等の近況について情報を交換した.とくにボツワナ大学では,来年度にボツワナでのワークショップやフィールド・エクスカーションを行う企画について,具体的な議論を進めた.本プロジェクトの一環として,ボツワナのコンタクトゾーンにおける社会再構築に関する問題,特に(ポスト)採集民の初期社会化と民俗知識の活性化について議論を行った.ボツワナのコンタクトゾーンの1つであるニューカデ村へのフィールド・エクスカーションでは,グイ/ガナの言語,教育方略,家族構成,健康,政策など,上記の研究プロジェクトに関連する実践的な問題について学ぶことを企画している.

また,在ボツワナ日本国大使館,JICAボツワナ支所も訪問し,本プロジェクトの進展やその背景となる研究代表者らのこれまでの教育・研究活動について紹介を行った.またボツワナの最近の社会・政治事情,在ボツワナ日本国大使館,JICAボツワナ支所が近年積極的に進めてきた活動(例:ボツワナと隣国の国境付近にあるカズングラ橋をめぐる活動)について,具体的なエピソードとともに情報交換を行い,興味深くかつ楽しい時間となった.

続いて本プロジェクトの主要サイトの1つ,ハンツィ地区のニューカデ村を訪問した.約1週間という短期間ではあったが,住人を対象に本プロジェクトに関する参与観察を行うとともに,在来知を活かしたコミュニティ開発に寄与することが期待され,本プロジェクトとも関係の深いNew Xade San Craft Shopなどを訪問して充実した滞在であった(写真1, 2).

写真1  New Xade San Craft Shop.
写真2  New Xade San Craft Shopで展示・販売されていた木工品や装飾具. 

続いてナミビアに移動し,首都のウインドフックで本プロジェクトのカウンターパートであるナミビア大学を訪問し,共同研究者であるRomie Nghitevelekwa講師,Fenny Ndapewa Nakanyete講師らとナミビアの狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンに関する打ち合わせを行うとともにこれに関する資料収集を行った.Nakanyete講師は最近ナミビアの狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンにおける住人のライフ・ヒストリーに基づく博士論文をまとめた優れた研究者であり,これから本プロジェクトの一環で現地で共同研究を行ったり京都大学を訪問したりすることも検討している.

その後,ナミビア北中部にあり,ナミビアルター派福音教会(ELCIN)の本部が置かれているオニパに移動した.ELCINは1870年以来,ナミビア北中部の教育・開発活動や南アフリカからのナミビアの解放運動に大きく貢献しただけでなく,サンに特化した開発活動や定住化,キリスト教の普及や識字教育にも積極的に取り組んできた(Takada 2022).オニパにはELCINの本部教会が置かれているだけでなく,ELCINが開設・運営の主体となり,その後独立したオナンジョコエ病院,同病院に付設され,その歴史的な貢献を紹介したり,オナンジョコエ病院の活動資料を保管したりしているオナンジョコエ医療博物館,ELCINの活動資料を保管するとともに一般向けの書籍も備えて地域住人にも開かれた活動を展開してきたアウアラ図書館,解放運動の時代を含め長年に渡って独自の出版事業を展開してきたELCIN出版部などが林立している(写真3, 4).オニパでは,ELCINでサンの識字教育に携わっていた故Sakaria Nghikefelwa氏を父親に持ち,自身もオナンジョコエ医療博物館を拠点として多面的な活動を進めているKleopas Nghikefelwa氏と活動を共にした.本研究プロジェクトでは,Nghikefelwa氏とナミビア北中部のコンタクト・ゾーンの歴史やサンの文化・開発について共同研究を進めていく予定である.オニパは,本プロジェクトにおいて重要な資料や人的ネットワークの拠点であると考えられるので,今後も同地での調査・研究活動を進めていきたい.また現地では,報告者の指導院生である渡邉麻友さんが長期フィールドワークを実施中である.

写真3  Kleopas Nghikefelwa氏(写真中央)が最近オニパにオープンしたOniipa Book Paradise and Internet Cafe.地域の文化交流・教育の拠点の1つとなることをねらっている.
写真4  Oniipa Book Paradise and Internet Cafeの内装.今後,報告者も協力して設備や機能を拡充して予定である.


さらに,本プロジェクトの主要サイトであるオコンゴ地区のエコカ村を短期訪問した.短い滞在ではあったが,旧知の友人・知人たちに加えてそれに続く世代の青年や子どもたちが温かく迎えてくれて,心の温まる交流を行うことができた.

紙幅の制限のため十分に述べることはできないが,その後も,ウインドフックに戻って本プロジェクトの関係者と研究打ち合わせを行ったり,資料収集を進めたりした.以上,今回の渡航は,基盤研究S「アフリカ狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンにおける子育ての生態学的未来構築」の進展に大きく貢献できたと考えている.これを可能にしてくれた関係諸機関や人々に感謝したい.