研究紹介

「アフリカ狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンにおける景観形成の自然誌」について

本研究の目的は,アフリカの代表的な狩猟採集民であるサンやピグミーが,近隣の農牧民とのコンタクトゾーンにおいて,その自然・社会環境とどのように関わってきたのかという問いと,その集合的アイデンティティをどのように構築してきたのかという問いを関連づけながら探究すること,すなわちその景観形成の自然誌を描くことです.

そのために,ボツワナ中央部,ナミビア北中部,カメルーン南東部という3つの地域において,見ること,歩くこと,語ることという3つのローカルな活動に関する資料を収集・分析します.

さらに,これらを比較考量し,アフリカの狩猟採集民と農牧民との関わりを特徴付けている文化的構造を明らかにします.

 

img11.見ること:見ることは社会的な行為です.私たちは環境を見る時,歴史・文化的に構築された特定の言語でそれを分類し,社会的に状況づけられた特定の側面に注目し,身体化された実践でそれを人々に表現します(C. Goodwin 1994).例えばグイやガナは,その生活域の様々なスケールに対応する民俗知識の体系(図1)により「自然」を「文化」に変換します(業績2,7,36,37).このテーマでは各コンタクトゾーンで狩猟採集民と農牧民が環境のどこをどのように見るか,それをどう表現するかを明らかにし,それと社会的出来事の形成過程の関わりを論じます.

2.歩くこと:見逃され易いことですが,私たちは環境と関わる時,たいてい動いています.また歩くことは,多くの狩猟採集民にとって最も基本的な移動手段であり,その生業様式を特徴づける動きです.例えばグイやガナの優れた環境認識の特色を理解するためには,歩行による道探索実践や狩猟活動の中でそれを分析せねばなりません(業績1,15,34,35,38,39).このテーマでは各々のコンタクトゾーンにおいて狩猟採集民と農牧民がどこをどの程度歩いているのかに関する経験的なデータを収集し,両者がその生態環境の中にどのようなハビタット(身体的ニッチ,物質的ニッチなどからなり,文化的な価値の教育・学習を支えている: Ochs et al. 2005)を形成しているのか明らかにします.

3.語ること:語ることは,相互行為の中で相互理解を達成する枠組みを提供すると共にその社会で歴史・文化的に構築されてきた制度の文脈におかれています.語りの分析は,人々の社会的アイデンティティがどう形成され,変化するのか,また不平等な状況下において,集合的な主体がどう作られ,壊されるのかについての理解を促します(Fraser 2003).例えばクンのライフストーリーは,彼らが周囲の人々や組織によって繰り返し周縁化されながらも,いくつかの方略によってその人々や組織との社会的コンフリクトを制御してきたことを示します(業績3,29,30).このテーマでは,各コンタクトゾーンで狩猟採集民と農牧民がどんな関係史を築いてきたのか,そしてそれを両者がどう理解しているのかを明らかにし,現代の社会変化や政治的実践の中で主体性を発揮していくためにどんな展望があり得るのかを論じます.

文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(A)(海外学術調査)「アフリカ狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンにおける景観形成の自然誌」
研究代表者: 高田 明 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授)