模倣の発達とその進化的基盤を考える
ヒトは出生直後から、あるいはお腹の中にいるときから他者とのコミュニケーションを求める存在である。生まれて数時間の乳児が、外界刺激の中から他者を自動的に選び取り、その表情を模倣する。胎内では、お母さんの声に選択的に耳を傾け、それに応答するかのように口を動かす。こうした生まれつきの社会的認知能力は、ヒトだけに備わっているわけではない。チンパンジーの乳児も他者に注意を向け、表情を模倣する。ヒトとチンパンジーは、生後間もない時期には、社会的認知の基盤の多くを共有している。しかし、その後の発達の道すじは、両種でかなり異なってくる。たとえば、他者の心の状態を敏感かつ柔軟に理解できるのはヒトだけと言われている。本セミナーでは、比較認知発達科学的アプローチから、胎児期~乳児期の模倣能力を検討することで、ヒト特有の知性の成り立ちについて議論したい。