行為連鎖のなかの言語使用:超音波検査における指し示しの実施
前半は,超音波診断装置のある環境において,女性の身体,およびその拡張としての超音波画像が,相互行為の組織のなかで,どのように構造化され知覚されるかを,考察する.超音波診断装置のある環境は,次の点で際立っている.すなわち,視覚のための領野(超音波モニター)と触覚のための領野(妊婦の腹部)が空間的に分散している.しかも,それでいて,例えば胎児の頭部は,同時に両方の領野に1つのものとしてある.このような環境に相互行為はいかに繋ぎとめられ,そうすることで,相互行為はどう組織されるのか.
後半は,それに対して,すべてを手で行なう,きわめて非技術的な環境における相互行為を扱う.この相互行為(触診による内診,もしくは経膣の触診)では,視覚から閉ざされた身体領域を,指示表現によって指し示すことが試みられている.前半と後半は,技術の有無という点において,ちょうど互いを相対化し,コンテキスト化するものとして構想されている.
70年代以降ビデオが簡便な記録手段して利用可能になったとき,視覚が相互行為のなかでどう組織され,あるいは相互行為は視覚とともにどう組織されるかに関する,経験的な研究が,とくにチャールズ・グッドウィンらを中心に急速に展開する.この報告では,これまでほとんど扱われることのなかった触覚の組織に焦点を当ていこうと思う.(前半は,2007年の認知言語学会のシンポジウムで,後半は,2007年の日本社会学会で報告したものです.)