出産前後のホームケアに関する相互行為分析
JSPS特別研究員(PD) / 埼玉大学
川島 理恵
家庭での妊婦自身のケアや新生児のケアは、それ自体が妊娠・出産の経験と深く関わっている。家庭でのケア自体が順調に行われていることが、大前提とされることが多い。例えば、妊婦自身が出産に向けて心身を整えるセルフケアは、医師や助産師とのやりとりの中では、「あたりまえのこと」として扱われる。また新生児のケアに関しては、母親がそのケアをうまくやれているのかどうかが産後検診などで語られる。家庭でのセルフケアやホームケアについての不安や問題を抱える妊婦や母親は少なくない。その一方で、そういった家庭でのケアが妊婦や母親の「実力」の現れとして評価の対象となることもある。本研究では出産時期のホームケアについて、妊婦や家族がどのように関わり合い家庭でのケアがされているのかを探る。
まず、家庭でのケアを理解するために、ホームケアに必要な知識がどのように得られ、実践されているのかに焦点を当てる。例えば、病院での検診や母親教室以外の日常生活の場で、妊娠中の体のケアに関してどのように語られるのか。母親はどのように新生児のケアについての様々な情報の中から取捨選択しながら実践をしていくのか。また家族がそこに関わる場合、そこには知識の伝達や共有がなされているのか。例えば、祖父母から養育者に対して行われるアドバイスがどのように実践されて行くのか。これらの点について、実際の日常生活における相互行為場面を中心に分析を進める。
また胎児や新生児に関する家庭での相互行為に焦点を当てることで、その中で親の責任が扱われているのか、それと同時にこどもの責任(応答可能性)が発生、構成されていくのか、その相互行為的過程を明らかにすることを目的とする。